さやがわです.
先日,学食で,このような出来事を経験しました.
ぼく「かけうどんの大をください」
調理係「わかりました」
提供物「かきあげうどんです」
なんと,かけうどんを頼んだのにもかかわらず,かきあげうどんが提供されてしまいました!
学食どっとコープによれば,かけうどん(中)の価格は275円ですが,かきあげうどん(中)の価格は374円です.したがって,中サイズを頼んだ場合,99円の価格差が生じることになります.このようなミスが起こった際,もし,財布の中に374未満円玉*1しか入っていなければ,レジで詰むことになってしまいます.
このようなミスは,学食担当者個人の責任に帰着させることも可能ですが,人間は必ずミスをするものです.とくに,本事例では,注文カウンターでの誤動作が,ユーザに対して直接金銭的な損害を招いています.このようなミスを減らすには,人間の注意力に頼るだけではなく,なるべくミスが起こりにくいように,注文プロセスそのものの設計を見直すのが有効だと考えます.
本記事では,私がかきあげうどんをあまり好まない*2ということを踏まえ,本事例がなぜ起こったのかについて,原因を分析するとともに,再発防止に向けた改善策を提案するものです.
Ⅰ.原因の分析
なぜ,かきあげはついたのか?
かけうどんを頼んだのに,かきあげうどんが出てきたのは,おそらく聞き間違いによる学食担当者の勘違いが原因ではないかと考えられます.
かけうどん /kakeudoN/ と,かきあげうどん /kakiageudoN/ は,文字で見ればかなり違うように見えますが,実際に発音してみると,十分混同できます.
ここで,いずれの単語も語末に「うどん」を共有していますので,語頭の要素だけを比較します.
「かけ」は,「か」ではじまって,「け」で終わります.
「かきあげ」は,「か」ではじまって,「げ」で終わります.
「かきあげ」を慌ただしく発音して,「きあ」がほとんど発音されなければ,「かけ」と混同されることは,想像に難くありません.騒がしい学食において,大雑把な発音で注文すれば,識別性が一気に低下することが容易に想像できます*3.
本事例では,このような,「かけに聞こえるかきあげ」を聞いて学習した生協担当者が,逆に「かけ」から「かきあげ」を想起してしましまったのでしょうか.
いずれにせよ,「かけ」と「かきあげ」の音声が似通っており,そのせいで混同が生じたと考えるのは,無理な類推ではないでしょう.
学食における,うどん類特有の問題
名称が似ていることにくわえ,かけうどんとかきあげうどんとの間には,もう一点,調理ミスを生じさせる構造的な問題を指摘することができます.それは,調理工程の共有です.
かけうどんとかきあげうどんは,その調理工程をほとんど共有しており,かきあげを載せるかどうかという差しかありません.
下図は,うどん類調理工程を示したフローチャートです.
重要なのは,生協において,このように調理プロセスの大半を共有するメニューの組み合わせは,かけうどん(そば)・かきあげうどん(そば)の他にはほとんどない*4ということです.
生協では,注文場は調理場を兼ねており,ユーザは調理工程を観察することができます.しかし,この2種のメニューは調理工程を共有していますから,ユーザは(間違って)かきあげが載せられるまでの間,かきあげうどんが作られているのか,かけうどんが作られているのか区別できません.
これが,間違えてラーメンを茹でているのであれば,観察によってその間違いを指摘することができます.しかし,かきあげうどんになるのを阻止しなければならないとき,すさまじい動体視力と注意力がない限りは,かきあげが載せられるのを黙って見ているほかありません.
このことが,かきあげ投入事故を未然に防ぐことを困難にしており,本事例のような悲惨な結果を生み出す要因のひとつになっているのではないでしょうか.
Ⅱ.新たなうどん提供方法の提案
本章では,前章の結果を踏まえ,再発防止に向けた注文・料理提供プロセスの改善策を3つ提案します.
1.名称の変更
本事例が発生した最も根本的な原因は,名称が類似していることです.したがって,より弁別的な名称をつけることによって,ある程度ミスを減らせることが期待できます.
たとえば,「かけうどん」は,「うどん」で代用可能です.わざわざ,「かけ」と宣言する必要はあるのでしょうか.
これだけでも,かきあげうどんとかけうどんの識別性は飛躍的に向上し,本事例のような事故を減らすのに十分な効果が期待できます.
しかし,この方法では,かけうどんとかきあげうどんの注文・調理プロセスは共通したままです.聞き間違いや思い込み,嫌がらせによってかきあげが載ってしまう可能性は否定しきれません.
この方法では,調理工程そのものは変化させず,注文方法を若干変更して,ミスを防ぎます.
まず,注文カウンターにおいて,ユーザは麺種のみを宣言します.
そして,すべてのベースとなるかけうどんが生成されたら,調理担当者は「かきあげ入れますか?」と問います.
「Yes」であればかきあげを投入し,「No」であれば投入しません.
この方法では,かきあげの投入直前に意思確認を行うことによって,調理担当者の思い込みによる誤投入を防ぎやすいという利点があります.しかし,調理担当者とユーザの間で交わされるコミュニケーションの量が多くなり,時間がかかるという欠点があります.
3.かきあげうどんの提供をやめる
前章で触れたように,かけうどんの調理プロセスと,かきあげうどんの調理プロセスはほとんど同一であり,かきあげを載せるか載せないかという差しかありません.
生協のかきあげうどんでは,かきあげを載せる工程も含めて,教育を受けた調理スタッフが担当します.しかし,麺を茹でる,ツユを注ぐといった工程に比べると,かきあげを載せる工程は,特別な設備や技能を必要としません.
そもそも,「かきあげを載せる」という工程を,調理担当者が行う必要性がどれほどあるのでしょうか.
たとえば,著名なうどんチェーンである丸亀製麺では,かきあげうどんというメニューを提供していません.しかし,かきあげうどんを実現することは可能です.なぜなら,丸亀製麺では「天ぷらコーナー」を設置しており,ユーザがかきあげやかしわ天などの揚げ物類を,自由に取ることができるようになっているからです.
生協でも,注文場の奥に惣菜・小鉢コーナーが設置されており,ここに,かきあげを単品で置けば,かきあげうどんを食べたいユーザが自由にかきあげうどんを生成できるようになります(しかも,夢のダブル・かきあげ*5も容易に実現可能).
かきあげを単品でおけば,調理場でわざわざかけうどんとかきあげうどんを弁別する必要はなくなり,調理場ではかけうどんに専念できることになります.
また,この手法を応用すれば,きつね,わかめなどほかのうどん種も,ユーザ側で容易に実装可能となります.きわめて拡張性の高い手法と言えます.
Ⅲ.むすびにかえて
昼休みなど,時間帯によっては大量の注文をこなさなければならない生協において,効率と正確性を両立する注文手法を構築することは,非常に重要です.
貴重な時間とお金,それに労力をかけて,意に反するものを食わされるのでは,食事体験としてあまりにも悲惨です.
くわえて,このたびの提案に関しては,かけうどん特有の事情を鑑みる必要があります.
かけうどんは,学食で提供される料理の中で,惣菜や小鉢類を除けば,最も安価に食事らしい経験を得られるものです.
経済的な事情などから,最も安価なメニューしか注文できない組合員もいる可能性を踏まえると,最も安価なメニューは,確実に,間違いなく提供されなければならないということになります.
この,学食が最低限の学生生活を保障しなければならないという観点に立てば,かけうどんとかきあげうどんを混同するミスが生じうる現行の注文・提供システムは,早急に是正しなければならないと言えるでしょう.
たかが99円の差ではありますが,それでも,積もり積もれば大きな差となります.
だからこそ,やはり,かけうどんを確実に提供できるよう,システムを見直すべきだと言えるのです.
あと,七味を置いてほしいです.よろしくお願いします.